釈日本紀 巻八・万葉集注釈巻第十 |
ひむかのくにのふどきにいはく、うすきのこおりのうち、ちほのさと、あまつひこひこほのににぎのみこと、 |
日向の国の風土記に曰はく、臼杵の郡の内、知鋪の郷、天津彦々火瓊々杵尊、 |
あめのいわくらをはなれ、あめのやえぐもをおしわけて、いづのちわきにちわきて、ひむかのたかちほの |
天の磐座を離れ、天の八重雲を排けて、稜威の道別きに道別きて、日向の高千穂の |
ふたがみのみねにあまもりましき。ときに、そらくらく、よるひるわかず、ひとみちをうしなひ、もののいろ |
二上の峰に天降りましき。時に、天暗冥く、夜昼別かず、人物道を失ひ、物の色 |
わきがたかりき。ここに、つちぐも、なをおおくわ・こくわといふものふたりありて、 |
別き難たかりき。ここに、土蜘蛛、名を大くわ・小くわと曰ふもの二人ありて、 |
もうししく、「すめみまのみこと、みことのみてもちて、いねちほをぬきてもみとなして、よもになげ |
奏言ししく、「皇孫の尊、尊の御手以ちて、稲千穂を抜きて籾と為して、四方に投げ |
ちらしたまはば、かならずあかりなむ」とまをしき、ときに、おおくわらのまをししがごと、 |
散らしたまはば、必ず開晴りなむ」とまをしき、時に、大くわ等の奏ししが如、 |
ちほのいねをてもみてもみとなして、なげちらしたまひければ、すなわち、そらあかり、 |
千穂の稲を搓みて籾と為して、投げ散らしたまひければ、即ち、天開晴り、 |
ひつきてりかがやきき。よりてたかちほのふたがみのみねといひき、のちのひと、あらためてちほとなづく。 |
日月照り光きき。因りて高千穂の二上の峰と曰ひき、後の人、改めて智鋪と号く。 |
(諸塚村史より)
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